どの大学に出願するかは「鉄道料金」次第? 見学にさえ行けない生徒も
ショーン・コクラン、BBCニュース 家族・教育問題担当編集委員

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「大学の一般公開日に行くための出費について、話し合うのは大切です」。イギリス南西部デヴォン州プリマスに住む高校生のレイチェルさんはこう言う。レイチェルさんは現在、進学先を検討中だ。
「地元から遠い大学まで、誰もが行けるわけではないので。鉄道の切符は高いし、宿泊代もおそらくかかります」
大学の一般公開日が集中する時期には、何万人もの10代の生徒とその家族が、英国内をあちこちに出向き、有望な大学を見学する。
国内を北から南へ鉄道で往復するには、200ポンド(約2万6000円)あるいは300ポンド(約4万円)もかかる。割引を使うとしても、見学する大学が4つも5つもある場合には、費用がかさみすぎて、誰でも見学できる一般公開とは名ばかりのものになってしまう。
車で移動するにしても、燃料代がかかる。長距離バスの移動には時間がかかるため、宿泊費を捻出しなければならない。
ところが、こうした出費問題は、これまで見過ごされてきたようだ。経済的に恵まれない生徒の選択肢を限定してしまう、直接の原因になっているかもしれないのに。
こういったイベントへの参加は無料だ。しかしレイチェルさんは、交通費がかかるため、自分は実質的にはイングランド北部の大学を選択肢から外すしかなかったと話す。
「行ったことのない街にある大学に、出願したいとは思いません。後悔するかもしれないので」

キングス・コレッジ・ロンドンで学生の社会移動と学業成功に取り組むアンマリー・キャニングさんは、出願する大学探しにかかる出費は、これまで考えられてきたよりもずっと大きな弊害だと指摘する。
社会移動に関する様々な理論を議論する中で、見落とされがちな現実的な問題のひとつ。それは、涙が出るほど高額な鉄道運賃だ。
「1番の問題」
経済的に恵まれない家族と共に、子供の大学進学の可能性を探るのが、キャニングさんの仕事の一部だ。
「大学に行かない理由について話し合うため、保護者に呼びかけました」
学費や学生ローンについて、あるいは自分の子どもが入試試験で合格点を取れるかどうか。保護者はそういうことを聞いてくるだろうと、キャニングさんは予想していた。
「ところが実は1番の問題は、『一般公開日に子どもたちを連れていけない。運賃を払う余裕がない』という内容だった」
特に、大学進学そのものが「未知の領域」だという家族にとっては、これが「大きなバリヤー」になってしまうという。
大学の一般公開に参加しなくても受験はできるが、大学進学という非常に大きい経済的投資をするには、保護者にとって見学は必要な第一歩なのだとキャニングさんは説明する。
「確かに不公平」
レイチェルさんは、経済力など恵まれない環境にいながら学力の高い若者を支える、社会移動慈善団体「ヴィリアーズ・パーク教育基金」から、学費支援を受けている。
同団体のプログラム・ディレクター、デボラ・リチャードソンさんは、一般公開日に参加するための費用は、若者の進学先の選択肢を直接的に狭めていると話す。
「生徒が将来何をするか、どの大学に行くか決める際、この費用は大きな要素になります」

「確かに不公平です。この国の鉄道運賃は、乗る直前に乗車券を買う場合には特に驚くほど高額です。誰でも知っているように。前もって一般公開日への参加を計画するのは、必ずしも簡単ではないのに」と、リチャードソンさんは話す。
「私立高校なら小型バスを用意して、マンチェスターやオックスフォード、ケンブリッジ、ニューカッスルあるいは他のどこへでも、10人から15人程度をまとめて連れて行きます。ですが、すべての公立校に同じ真似はできません」
生徒が希望大学を見学し、指導教官に会ったり、どの専攻がいいか調べたり、大学の寮の様子を確認するための費用と計画は、通常は親が面倒を見ることになっている。
さらに、何千もの家族が、大学がある町に一斉に押し寄せるとなると、鉄道料金は決して安くはならない。
英南西部のブリストル大学では、今夏2日間の一般公開を予定しているが、すでに3万人の予約が入っている。
金銭的負担

南東部イースト・サセックス州ヘイスティングス出身のセイディさんの仲間は、どの大学なら旅費がなんとかなるかみんなして調べているのだという。セイディさんも、ヴィリアーズ・パーク教育基金から支援を受ける高校生の1人だ。
セイディさん自身は、中部ノッティンガムよりも北の大学は検討していない。つまり、北東部のニューカッスルやダラムなど、本来なら進学先として検討していたかもしれない複数の地域が、対象から外れるということだ。
見学もしないで大学に「やみくもに出願すること」は、あまりにも危険だとセイディーさんは感じている。
「その大学がどういうところで、自分に合っているのかどうか、見学してみないと分からない」

南西部プリマス出身のローレン・ハンプソンさんは、「大学進学はものすごく大きい出費です。十分な情報を得た上で判断を下す必要があります。大学が気に入らなかったり、お金がまったく無駄になったりするかもしれない。なので、実際に行ったこともない大学に出願はしません」と言う。
「気に入るかどうかを判断するには、自分の目で見てみないと。どこかの大学に心を決めているとしても、素晴らしい大学のように見えたとしても、実際に行ってみたら気に入らない可能性もあるので」
「一部は除外」
そうだとすると、出願するかもしれない大学の選択肢が、かなり限られはしないか。
「もちろん。一部の大学は最初から除外してしまうことになります」とセイディさんは認める。

プリマス出身のサラさんは、自分はおそらくロンドンより遠方には通わないだろうと話す。
「鉄道運賃や、宿泊費を負担しなければならないのであれば、遠方まで足を運ぶのはかなり難しいです。他の人は、実際に大学を見に行けて、進学先についてもっと良い決断ができる機会に恵まれているかもしれないなんて、公平ではないと思います」
同じくプリマス出身のイーサンさんは、大学の一般公開日は、「大学側がオンライン上で良く見せていることだけでなく」、「実際の学生や環境、学生生活の全般的な雰囲気をこの目で見る」ために必要だと考えている。

展示イベント
大学一般公開の重要性は、大学側にとっても増している。学生の獲得や、授業料収入の確保のために競わなければならないからだ。
一般公開はいまや、教員や入試担当者、アドバイザーが同席する、学生採用のための展示イベントと化している。
大学が金銭的サポートも
大学側も、見学にかかる交通費を課題だと認識している。一部の大学は、生徒の経済状況に応じて資金援助をしている。
例えば、東部ノリッジにあるイースト・アングリア大学には今年、生徒個人や28の学校から、合わせて94件の申請があった。
イングランド中部のシェフィールド大学では、一般公開期間中、何日分かの宿泊を無料で提供しており、今年だけですでに500人以上がこれを利用した。
「交通費を補助したり、宿泊場所を提供したりすることで、それがなければ見学に参加できなかった生徒たちが一般公開に参加できるようになる」と、同大学で一般公開の参加者拡大に取り組むジェイムズ・ブッソンさんは話す。

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ダラム大学では、福祉援助を得ていたなど一定の条件を満たす生徒に、最大100ポンドまでの交通費を提供している。
オックスフォード大学でも、キーブル・コレッジやモードリン・コレッジ、マートン・コレッジなどが支援制度を用意している。
キャニングさんが勤めるキングス・コレッジ・ロンドンにも、交通費の補助制度があるという。
しかし交通手段と大学進学の関係について、今まで以上に連携して取り組み、慎重に検討する必要があると、キャニングさんは強調する。
イギリス国内の大学は、入学する生徒の多様性拡大のため、年間合計8億ポンド(約1兆350億円)以上を費やしている。しかしそもそも、色々な家庭環境の生徒が大学を見学できなければ、大学は多様な学生を確保できるはずもない。
鉄道運行会社「ネットワーク・レイル」などが加入する鉄道会社団体、レイル・デリヴァリー・グループ(RDG)の広報担当によると、「格安の鉄道切符はたくさんある」という。
「レイルカードを利用すれば、運賃は3分の2に抑えられます。私たちは20年前に比べて、2倍の数の長距離列車を運行しており、座席数の多い最新列車をたくさん導入しています」







